初心者の寒蘭栽培






培養土

 現在市販されているどの東洋蘭培養土を使っても、「これはダメだ」という土は有りません。栽培手引書などに「土の選択は最も難しい事の一つ」などと書かれていますが、どの土も平均的な環境下で栽培できる土として良く考えられています。初めて東洋蘭を栽培される方の場合、市販の東洋蘭培養土を使うのが最も適切な方法だと思います。各社の販売している東洋蘭培養土は、そのほとんどが「配合土」と呼ばれるもので、配合されている土の種類や配合割合はそれぞれ異なりますが、結果的にどれも似たような性質になっています。始めてしばらくすると「あの土が良い」などと言う人の話が聞こえて、色々と土に凝る方が有りますが、蘭の根が土になじむだけでも三ヶ月以上掛かりますので、頻繁に土を換えるのは蘭のためにならず、かえって根を悪くします。一度植え込んだら少なくとも一年間はそのまま様子を見ることをお勧めします。
植え込み株の前処理

 次に植え方ですが、これも広く一般的に行われている方法が一番良いと思います。まず一般的な方法で2〜3年は栽培してみなければ、いったい何が平均的であるのかさえ分からなくなってしまいます。その後、色々と自分なりの工夫をするのが上達のコツです。さて一般的な方法ですが、まず、植え込む予定の株の根を観察し、黒く変色し押すと汁の出るような部分や、皮だけになった部分が完全に無くなるように、鋭い刃物で切取ります。このとき、同じ刃物で別の株を切ったりするとウイルス病に感染する可能性が有りますので、軽く炎にかざしてから別の株を切るなどの注意が必要です。悪い部分を切り取ってきれいな根だけになったら、トップジンM、ベンレートなどの水和剤を規定倍率に薄めた液に30分程度漬けて消毒します。大量に植え替える場合などはこの様な消毒方法では薬剤のムダになりますので、株を並べて置き噴霧器でベットリ濡れるまで両面から散布します。

写真は株分けして、不要な根を整理した状態です。
この株の場合は比較的傷んでいませんでした。私の評価ではBランクの根です。
植え土の準備

 これも人によって様々ですが、ここでも一般的な方法を述べます。一般的な植え込み方法は三層植えですから、事前に三種類の粒の大きさの違う土を別々の入れ物に必要量だけ用意しておきます。土はザルのようなものに入れて貯まり水の中で良く洗い、微塵やアクを抜いておきます。半日ほど乾かして表面は乾いていても湿気を感じる状態になった土を使用します。


写真は黒土を使用しているため、乾燥した状態で植込んでいますが、通常の培養土を使用するときは、やや湿り気のある状態で植込んで下さい。

植え込み

 植え込む予定の株にどの程度の根があり、その長さがどの程度あるのか観察し、植え込み鉢を決めます。株と鉢を比較して、もし鉢よりも遥かに根が長い場合は、鉢に入れてから株元を持って株を固定し、鉢だけを回して根が鉢底にらせん状に巻くようにします。次に、根が鉢の内側に出来るだけ密着するように箸などを使って鉢内の根を広げます。このとき注意する事は、鉢の上の縁とバルブの高さを揃える事です。土を入れてから変更するのは大変ですから、この時点で確認しておきます。位置が決まったらそのまま手を伸ばして、少し遠くから眺めてみます。鉢と株のバランス、新芽が出る位置などを確認して土を入れる作業を始めます。

土入れ

 まず、大粒の土を鉢底に2〜3層入れます。根が多い場合など、根と根の隙間に土粒が入らない場合がありますが、箸などを使って出来るだけ根と土粒を密着させます。次に中粒を鉢の7割程度まで入れ、最後に小粒で鉢の表面まで覆います。ここでも根が多い場合はバルブの下に隙間が出来ますので、箸を使って隙間の無いように小粒を詰め込みます。最後に化粧土を使う場合は化粧土を、使わない場合は小粒でバルブの三割程度が隠れるまで土を入れて出来上がりです。

水掛けとその後の管理

 植え込みが終わった鉢は如露で充分に潅水をします。最初に水洗いを済ませた土でも植え込み作業中に壊れるのか、最初は多少濁った水が鉢底から出ます。完全に濁りが無くなるまで潅水をして、直射日光の当たらない、昼夜を通して温度変化の少ない、出来れば空中湿度の高い場所に置き、2〜3週間様子を見ます。その間、水切れを起こさない様に頻繁に潅水を行います。

通常の管理

 葉に艶があるか、葉が巻き込んでいないかなど、株に変化が起きていない事を確かめて、通常の管理に戻します。しかし、通常の管理に戻しても他の鉢よりも注意深く観察する事が必要で、様子がおかしいと思った場合は前項の「その後の管理」に戻します。
 さて、無事馴化が澄んだら通常の作場に戻す事になりますが、初めて東洋蘭を栽培される方は作場そのものが有りませんので、どのような場所で栽培したら良いのか迷われるかも知れません。そこで、一般的な栽培場所に付いて少し書きます。

栽培に適した場所

 東洋蘭と一口に言っても種類や品種によって栽培条件が異なりますが、大雑把に言うならば、東か南向きの出来れば一日中陽 の当たる場所で50%程度の遮光をして、風通しが良く、空中湿度を保てる場所が望ましいのですが、よほど敷地に余裕があるか、蘭のために土地が買える方でもない限り、理想とは程遠い場所で辛抱する事になります。元々、それほど難しい植物でもなく、ある程度は環境に慣れますから、よく観察する事と工夫次第でどこでも作れないと言う事は有りません。暗い場所ならプラントルクスで補光すれば何とかなりますし、風が通らない場合は扇風機を、空中湿度が低い場合は加湿器を使えば良いわけです。そこまでしなくとも、日常的に人が住める場所なら問題なく育ちます。

潅水

 「水掛3年」と言って、水遣りは最も難しい事とされていますが、要は鉢内の水分のコントロールと言う問題に尽きます。現在市販されている東洋蘭培養土なら、4日に一度の潅水であれ2日に一回であれ水が原因で根が悪くなると言う事は有りません。根が悪くなる理由は、肥料や前出の根の消毒が不完全なためで、水が原因では有りません。むしろ、「根が悪くなるから水は控えめに」と言う言葉を信じて、水切れを起こした場合の方が深刻な被害が発生します。もちろん、シーズンによって、環境によって、潅水間隔が長くなる場合や短くなる場合は有りますが、それほど厳密なものでは無く、「活動期はどんどんやっても問題無いが、休眠期は土が湿っていれば良い」と言う程度のものです。

肥料

 肥料に付いて最初に言わねばならない事は、「過ぎたるは及ばざるが如し」の一言に尽きます。最初は注意深く使用していた肥料も、「多少多めでもこの程度なら問題ないだろう」と徐々に量が増えたり、施していた肥料分が慢性的に鉢内に溜まっていても気が付かないという状態が起こる場合も有ります。また、「東洋蘭専門肥料だから」とか、「数年寝かせた有機肥料だから」と言う事で、安全だと錯覚を起こす場合も有ります。有機肥料だけでなく無機肥料の場合でも病原菌の餌になる事を心して置くべきだと思います。

まとめ
 「東洋蘭」と言えば、高い花、難しい花と考える方が多い様ですが、一部を除いて決して高価なものでは有りませんし、栽培に付いても難しいと言うのは誤解です。私の場合も、最初は野性蘭全般を集めていたのですが、まず高山性の物が消え、寒波によって耐寒性の低い種が消え、次いで病気に弱い種も徐々に無くなり、最後に残ったのが「東洋蘭」でした。野性蘭のコレクションが空鉢とラベルのコレクションに変わった時、空しくなって野生蘭から撤退しました。それから25年近く経過しましたが、その頃買った寒蘭は今でも毎年花を咲かせてくれます。無名の紅花ですが、寒蘭と出会った最初の花で有り、今でも大切にしています。